その時の“出来事”を、証言する当事者たち。
“出来事”の大まかな内容は一致するのだが、よく聴いてみると、証言には微妙な食い違いが出てくる。
すると、真実はまさに“やぶの中”だ-
今回、御紹介する映画
「戦火の勇気」(Courage Under Fire)
は、「戦時中」に一体そこで何が起こっていたのか、なかなか真相がみえてこないだけに、観る者もあれこれ推理してしまうのだが--
舞台設定など次元は違うが、日本の映画でいえば、
有名な黒澤明の「羅生門」に似ている感じだ。
原作は芥川龍之介の短編小説 『藪の中』。
対立する複数の視点から同じ出来事を全く違う風に回想し、真実がどうだったのか観客を混乱させるという手法が用いられており、これはアメリカや中国など、多くの国の映画やフィクションに影響を与えている。
『戦火の勇気』は、1996年に製作・公開されたアメリカ映画。
出演はデンゼル・ワシントン、メグ・ライアン、ルー・ダイアモンド・フィリップス、マット・デイモンなど。
湾岸戦争中の「砂漠の嵐」作戦の最中、戦車部隊隊長のナサニエル・サーリング中佐(デンゼル・ワシントン)はクウェート領内で敵の戦車と誤認して部下であり親友のボイヤー大尉の戦車に向かって射撃命令を下し、同士討ちを犯してしまった。
戦争終結後、サーリング中佐は、良心の痛みを感じながらも、新しい仕事を始める。
それは、名誉勲章などを扱う部署で、史上初の女性名誉勲章受章者になるかもしれないカレン・ウォールデン大尉(メグ・ライアン)の調査だった。
彼女は医療ヘリに乗り、勇敢に戦って負傷兵を救助した軍人として候補に挙がっているのだ。史上初の女性名誉勲章受章者と言う事で軍にとって最良の宣伝材料になると考えていたペンタゴンは彼女に授与する事に大乗り気だったが、調査を始めてすぐにサーリング中佐は不可解な点に気付かざるを得なかった--
「うーん、一体、誰の話が“真実”なんだ?」
この映画を観た人の誰もが、こうした疑問を抱き、じれったくてたまらないけど、なんだかワクワク、ドキドキしてしまうのではないか。
後半からラストに向かっていくと、次々と明らかになる真相に、映画の醍醐味をたっぷり感じさせてくれる作品だ。
そして最後の場面で、本当の「戦火の勇気」とは何かを教えられるのだ。
真の「戦火の勇気」とは、単に猪突猛進、勇猛果敢に戦うことではなく、絶対に“真実”から目をそむけない生き方だ。
自身にとって、とてつもないダメージのある失敗や、不名誉な出来事であっても、決して逃げずに、真正面から見つめ、謙虚に、まっすぐに行動するということ-
そんなことを学ばせてくれる映画だった。